私が30代のはじめ、ダムサイトの地質調査で数年にわたって滞在した、山形県の西川町や小国町は、とりわけ山菜が豊富な所であった。
タラの芽を始めとして、ウド、シドケ、ワラビ、ミズ、アイコ(こしアブラ)、ゼンマイ、フキ等々、私は本格的な山菜取りをしたことは無かったが、プロの人に同行して、自分の周りに生えている草がほとんど全部、食べることができる山菜だという事を教えられ、自分の無知を知らされることになる。
それでは山菜は、見つけたら手当たり次第に採れば良いかと言うと、そうとばかりは限らない。
例えばワラビ。野焼きなどをした跡の陽当りのよい斜面で、割りばし位の太さで、長さ2、30cmのものは、いくら採っても質が良いものはない。ワラビは薮の中などで、あまり陽当りが良くない所に生えているのがねらい目で、このような所に育つワラビは親指くらいの太さになって、草丈は1~2mもあリ、味には粘り気があって、「トロ ・ワラビ」などと称され、秋田県や福島県などでは特産品として売り出されている。
山菜の女王といわれる「タラの芽」なども、季節が合えば、地質調査のついでに、あちこちで出会うことが多い。山菜には素人の私でも、宮城県内だけでなく、青森県・岩手県・山形県など10か所以上の産地を知っている。
しかし山菜採りは、地面に生えていてすぐ手の届く草本類は別として、灌木の先端に出る芽などを採取する時には注意が必要である。ある年に丁度採りやすく手ごろな高さに恵まれて、大量の収穫があった所でも、数年後に同じ所を訪れて見ると、その間に樹木は成長してしまっていて、先端の芽などには手がとどかなくなっていて、あきらめざるを得ないということも少なくない。
そんな時は、樹の先端部をひっかけて下にまげることが出来るような道具を持って行くだけで、収穫量が大きく違うことを経験できる。
山形県の内陸中央部にある西川町は、山菜料理で全国的に名を知られた所で、初夏のシーズンなどには首都圏あたりから観光バスを連ねて大勢の観光客が訪れる。
今は多分、外国人などにも人気が高く、これらの人達が観光客の主体になっているかも知れない。
もう40年も前、材料費はタダみたいなのに、1人前のコース料理が3千円以上もしていたことを思い出すが、今の相場はいくらぐらいになっているのだろうか?
山菜のシーズンが終わるころは月山の「根マガリダケ」の季節である。これは熊ササのタケノコ(筍)で、これの鍋も結構美味しい。秋はキノコのシーズンだ。マツタケはそれ程多くはないが、シメジ、シイタケ、ナメコ、マイタケその他多くのキノコ汁が食卓をにぎわす。
ちょっと毛色が変わるが、自然薯(山地自生のヤマイモ)掘リも、晚秋から初冬にかけての風物詩である。曲がり くねって地中深く育つ自然薯を、途中で折ることな く上手に掘り出すには名人の芸でも半日くらいはかかる。
キノコ採りでも、ヤマイモ掘りでも、名人と言われる人は決して取りっぱなしにはしない。
マツタケならとった場所の跡に、松の枯れ葉をぶせて、できるだけ元通りの環境に戻そうとし、ヤマイモは掘った穴を埋め戻しておく。またナメコなどは全部採らないで一部を残しておくのである。
こうすれば翌年もまた、同じ所に同じ獲物を見つけ出せる可能性が高く、この人には〇〇堀り(採り)の名人という称号が与えられるのである。
山菜もキノコ採りも、それを生業としているプロに同行してもらうのが最良であるが、最近は温暖化のために年々季節が早まっているので、出かける時期には細心の注意が必要だ。